世界一エコなバックパックは地球環境を救うか?「Mobius」提供サンプルレビュー


tentreeが現在Kickstarterでキャンペーンを行っている「Mobius - The World's Most Eco-Progressive Backpack」は、エコであることを徹底したバックパックだ。今回プロトタイプのレビュー用サンプルを提供戴く事ができたのでご紹介しよう。



まずはプロジェクト動画から。



自ら「地球上最もエコ・プログレッシブなバックパック」を謳うMobius。100%リサイクル素材で作られ、通常のバックパックよりも製造に掛かるエネルギーは45%少なく、使用する水は20%少なく、CO2排出も30%少ないとされている。先にこのバックパックの最も重要なポイントである環境への配慮に関してより詳しく記すが、決してバックパックとしての性能も甘く考えられているわけではない。

最も環境に優しいバックパック


バックパックを作る繊維はREPREVE社のリサイクルされたプラスチックボトル100%でできたものを使用。それだけではなく、バックパックの中に入っているパッドは藻類でできているし、帯紐部分はリサイクルナイロン、メッシュ部分もリサイクルされたPET、バックルも工場ででた素材をリサイクルして作られ、ファスナーの取っ手とロゴには持続性の高い素材として知られるコルク、ファスナーもリサイクルされたものだ。こちらの動画ではMobiusのデザインについてデザイナーのJoey Pringleが語っているのでこれも観ると参考になるだろう。



中でも私が興味深いと思うのは藻を使用したパッドだ。藻が水辺で高密度に発生する藻類ブルームは水温が高いと発生しやすく、中には有害なものもある。例えば大量発生した藻が水中の酸素量を低下させることにより水中の生物が死ぬことが問題になる。他にもシアノトキという動物や人間にとり有害な毒素を生むものもあり、これに汚染された水を飲んだ家畜が死亡したりもするし、魚や貝に蓄積され、これを人が食べる事で貝毒の症状を起こすこともある。毒のある水や魚介類を食べると人でも死亡することがある。

地球温暖化に伴いこのような藻類ブルームが増えることが問題になっている。これは寒いイメージのある北欧フィンランドでも例外ではなく、例えば今年猛暑となったフィンランドではこのような藍藻(sinilevä)が多く発生して湖や海の魚が死んだり、遊泳注意警告(藍藻が多くあるところで遊泳すると肌が痒くなったり、水が口に入ることで腹痛を起こしたりなどする)なども出ていた。フィンランドの面するバルト海では海の流れが少ないためなおさら海で出やすいようだ。

このように自然生態系にも害を成す藻であるが、MobiusではBLOOMという会社の作る藻でできたフォームをパッドに使用している。藻を回収して綺麗に水を戻し、回収した藻は乾燥、粉末化され、エチレン酢酸ビニルコポリマーのペレットに混ぜられで作られる。藻のバイオマスはタンパク質豊富なために熱可塑性を持ち、ポリマーのような特性を持ったつなぎ材として機能するのだ。

BLOOM社曰く「今のところは」BLOOMフォームは生分解性はないし、藻が混ざっているせいでリサイクルもできない。だが藻は大気中のCO2を吸収するとされており、このフォームにする事でそれだけCO2が大気に戻らないでフォーム中に閉じ込められるとしている。Mobius一つに使われるフォームで500mlペットボトル293本分の藻のない水が自然に戻り、11インチの風船27個分のCO2が閉じ込められるとしている。



Mobius



バックパックとしてのMobiusを見てみよう。このバックパックでまず目につくのはオーロラ柄だろうが、このオーロラ柄以外にも無地の黒いバージョンと、生地が紺色で海のイメージがあしらわれたものの3種類ある。


image credit: Kickstarter

なお柄は資金調達が終わって以降バッカーサーベイを提出する際に住所などと共に回答するようになっている。


何も入れていない状態での重量は0.85kg。ただし、公式発表数値は「824g」(0.85kg)なのでもしかしたら私がレビューしているものがプロトタイプであるからかもしれない。


底部は平らにフォームが入っており、内容物に偏りが無ければ自立できる。

生地は600Dポリエステル繊維でできており、「濡れる状況でも驚くほど許容できる」とされるものの、防水とはなっていない。その理由としては防水加工にするには持続可能素材を諦めないといけないことが挙げられている


容量調整も自在なデザイン



上部口は防水バックパックやトラベル用洗濯バッグなどにある大きく開く口が、バックルにより留められる形状になっている。

バックパックを一番小さくした状態では、上部口のバックルはバックパック左右側面に留めるようになっており、この状態では高さ46cmに。さらにバックパックの分厚さも両脇に二つづつついたバックル付きストラップを締めることで圧縮でき、奥行きは12cm。幅は30cmで16Lのデイバッグ的なバックパックとなる。この状態では上部には取っ手が現れる。


先ほどの状態からバックパック両脇のストラップを広げて奥行きを20cmとする事で27Lまで広げることが可能。


そしてこれまでの2形態ではバックパック左右のバックルに留められていた上部口を一旦解放し、それまで巻き留められていた上部を伸ばし、上部口左右についたバックルを上で留めれば、高さが59cmまで上がり、35Lまで容量を拡張できるのだ。この状態では上部で留めたバックルが持ち手の役割も果たすようになる。


もちろん、雨が降り込んだり中のものが落ちたりする心配が無いのであれば、上部を開けたままにすることでもっと沢山のものを詰め込むこともできるだろう。それに、縦に長いものを運ぶ必要がある際にはバックパック側面は解放せずに上方向にだけ広げるという選択肢もある。多様に形と容量を変えることができるのは便利だ。

フロントポケット



フロントポケットの外側にも内部を保護するために藻で作られたBLOOMフォームが入っている。四角形をしたこのポケットも3面をガバリ解放することができ(正確には左右の辺の下部は5cmほど開かない部分がある)、中を簡単に見渡すことができる。ペンや小物用のポケットもついているので、例えばすぐに取り出したい物やバッテリー、ケーブル内を収納するのに良いだろう。フロントポケット内部にも柄がついているのは素敵だ。


フロントポケットの右肩とファスナーにはコルク製のロゴとスライダータグが。

メインコンパートメントへのアクセス



背負った時に背面に来る部分はメイン収納スペースへのアクセスに使うと共に、15インチまでのラップトップが収納可能。もちろんバックパック上部を開けて出し入れすることも可能だが、こちらから開けたほうが中に入っているものが一目で見渡せるので便利だ。


ラップトップポケットは背中側、内部に面した側(側面と下部も)が藻フォームで保護され、ベルクロでラップトップが飛び出さないようにポケット上部が留められるようになっている。


特に背中側はフォームが分厚く入っている。


またこのアクセス部分はファスナーのスライダー(開け閉めの際にスライドさせて使う部品)が4つついているのも特徴となっている。そのため、ガバッと全部開けること無く右下に入れたものをその部分だけファスナーを開けて取り出したりする事ができるのだ。


この面のファスナーにはどれもツマミとなるような部品がついていないため開閉しづらいが、スライダーにはストラップ類や紐などを通すことのできる穴が開いているのでそこに何か取り付けると良いだろう。個人的にはここの4つのスライダーのうち最もよく開閉に使われるであろう内側の二つにコルク製のツマミが最初からついていてもよかったのでは、とも思うが。

なお、バックパックに使用されているファスナーは全てYKK製で、しかもリサイクルされているものとなっている。

- 両サイド



バックパック右側にはサイドポケットもついている。ポケットの上部にはバックパックの分厚さを調節するストラップが位置するので、ポケットよりも長いもの(例えば水筒、傘、タオル、三脚とか)を収納する際にはこれで固定することもできる。


少し残念なのは、このサイドポケットの生地は余裕を持って作られていないため、バックパック横バックルを解放した状態(上写真)で内部に目一杯ものを詰めた状態では何も入れられなくなってしまうこと。


左側にはジッパー付きのポケット。


小ぶりだが、iPhone5くらいなら余裕で入る。

ショルダーストラップ



バックパック背面とショルダーストラップはあまりぱっとしない見た目だが、つけ心地は悪くない。


ショルダーストラップは首から胸に掛けて僅かにカーブを帯びている。チェストストラップもついており、差し込み式で高さ調整も可能になっている。



実際に入れてみた

16L


バックパックに詰めてみた。まずは16Lの状態から。


メインコンパートメントに入っているのは:

・Acteonパッキングキューブ S:中には1日分の下着の着替えとカッターシャツ、スポーツジャケットに手袋(フィンランドはもう肌寒い)。

・STIKYタオル:以前ライフハッカーでレビューを書かせて戴いたタオル。

・防水ジャケットモンベル バーサライトジャケット、ただの「撥水」製品ではなく、れっきとした「雨具」でありながらもジャケット単体の重さは168gでペットボトルサイズ。

・ヘッドホン:「プリン色」でおなじみSennheiser HD598

・筆記用具Rollgut


フロントポケット側は:

・扇子

・スピーカーharman/kardon ESQUIRE Mini、モバイルバッテリーにもなる。

・パソコン:Surface 3

・スケッチブック:A5サイズ

・ペン:ペンを指すのに丁度良いサイズのポケットが3つあるので入れてみた。

・のど飴ヴィックス梅味、急に喉が痛くなったときに。

・薬類:乗り物酔いの薬とか、無印のケースに入れて。

・身だしなみ用品:無印のメッシュケースに髭剃りとか爪切りとかペーパーソープ、ポケットティッシュなど。

・セサミバー:お腹が減ったときに食べるもの。フラップジャック系の食べ物バーと違い甘ったるくないし歯にギトギトつかなくて良い。

・レザーポーチ:筆記用具を入れているthisisground。


全部入れてペットボトルも入れ込むとこんな感じに。

27L


左右のストラップを広げて27Lにすると先ほどの中身全てに加えて:

Acteonパッキングキューブ L:秋冬物のセーターとかが入ってる。

・OMNI-PILLOWライフハッカーでレビューを書かせて戴いたネックピローにも枕にも、ピロートップにもなるやつ。

・Adventure Tape M:粘着性はないがテープ同士が引っ付く万能テープ。

・ミニサイズのシャンプー+コンディショナーとミニサイズのリセッシュ

・本:Mikko Rimminen著「Pussikaljaromaani」


隙間無く詰めたわけではないのでまだまだものを入れることはできるが、とりあえず横幅いっぱいまで入れた。前述のようにこの状態だとサイドポケットにボトルを入れることは不可能。



パッキングキューブ



image credit: Kickstarter

今回レビューすることはできなかったが、Mobiusには内部にピッタリ収納できるサイズにデザインされたパッキングキューブも大小2種類用意されている。

大は24x10x30cmで7L収納可能、小は20x10x14cmの3Lとなっており、大きいキューブの中に小さいキューブをふたつピッタリ収納することもできる。

大は靴やタオルの収納、小は下着や小物などを入れるのにピッタリだとされている。大小共に取っ手もついているため、旅行先などでホテルに置いておく収納物をガバッと取り出したりするのにも便利だ。大1種、小2種はどれも色が異なるため、どれに何を入れたか間違えることはないだろう。

特にバックパック内部に複数の荷物をただ入れた状態で、荷物の間に隙間があったりなどすると(バックパック側面のストラップを締めることで隙間を減らすことが可能ではあるが)、バックパックを背負って移動する間に中の荷物がぐちゃぐちゃになってしまうこともある。また、Peak DesignのEveryday Backpackなどと違い、メインコンパートメントには仕切りが存在せず、一つの巨大な空間となってしまうため、このような内部サイズにぴったり合うパッキングキューブはあると便利だろう。



まとめ



ディスカバリージャパンでも執筆したとおり、環境の観点からはそもそも新しいものを作ること、新しいものを購入することよりも、すでにあるものを使用すること(Mobiusはある意味これを極めているが)、そしてそれよりはすでにあるものをそのまま使用することがより良いはずである(これが車や冷蔵庫などエネルギーを消費するものの場合は、より新しい技術でエネルギー消費が抑えられることも考慮に入れる必要もあるだろうが)。その点において、すでに満足いくバックパックを持っている人が新しくバックパックを購入する際にMobiusを選択するのであれば、それはMobius以外のバックパックを購入するよりは環境への負担は少ないであろうが、新しい商品を購入することで結果的に更なる商品製造を招くという点においては、購入しないことより環境へ負担があると言える。tentreeの「通常のバックパックよりも製造に掛かるエネルギーは45%少なく、使用する水は20%少なく、CO2排出も30%少ない」という言葉を逆手に取れば、「バックパックを買わないという選択よりも通常のバックパックと比較して55%のエネルギーが掛かり、80%の水を使用し、70%のCO2を排出する」ということである。

あなたがただ「エコ」という言葉に購買意欲を刺激されるだけの「まがい物の環境意識を持った人間」ではないのであればこのことは常に意識すべきであろう。ただし、必要に迫られて新しいバックパックを購入するのであれば、Mobiusはセカンドハンドショップでバックパックを購入することに次いで、これまでにみられないほどに高いレベルでの環境配慮をした非常に有意義な選択肢となるであろう。

バックパックとしては、最近Kickstarterで見かける機能的なバックパックの多くが何も入れていない状態で1kg以上のものが多い中、0.85kgと軽量であることも強みだし、バックパックと収納サイズが自在に変えられるのも便利だ。Mobiusバックパック単体のKickstarter価格は108カナダドル(約9300円)と比較的安価あることも注目すべきだろう。

横面を拡張した状態でサイドポケットが使えないというのはデザインミスであると思うが、今回私がレビューさせて戴いたものはプロトタイプであることも留意すべきだ。その証拠にプロジェクトページのコメント欄では内部コンパートメントのオーガナイズに関して「良いアイデア」があり、今後これについて情報が公開されるとされている。この事からは、今後私がレビューしたものとKickstarterプロジェクトのバッカーが手に入れるであろうバックパックの細部は異なることが予想されるし、私もレビューワーとしてサイドポケットに関してtentreeに直接指摘しようと思う。

また、個人的にはこのオーロラ柄のものや海柄のものは個性があってオシャレだと思うと共に、無地のバージョンは無骨でダサいと思うが、逆に言えば無地バージョンはビジネスにも使える無難性を持つとも言えよう。

しかし何よりもここまでバックパックを再生素材や持続性を考えた素材をフルに使って作り上げたものはこれまで無かったという点においてMobiusバックパックは評価されるべき存在だ。今後今にも増して環境問題は注目されていくことになると思うが、Mobiusバックパックはこれまでに無いほどに環境問題に対する取り組みを積極的に行われ作り上げられた先進的なバックパックとして名を残すだろう。なおtentree社(同社はB corporation認定も受けている)はひとつ製品が売れる度に10本の木を植え、2020年までに10億本の木を植えることを目標に掲げ、既に210万本以上植樹しているという。

プロジェクトはあと16日を残し600%を超す資金を集めている。




Source: Kickstarter, REPREVE, BLOOM

(abcxyz)

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