新型SBDC091登場を目前に、セイコー・アルピニストSARB017レビュー。個々の部品が形作る総和の美


2018年に製造終了となり、57年の歴史に幕を閉じるのかと国内外で嘆かれたセイコー・アルピニスト(現在も販売されるダサいデジタルのプロスペックス・アルピニストSBEBのことはみんな無視しているようだ)。ところがどっこい、2020年1月に新たに6R35ムーブメントを採用したアルピニストが戻ってくるという話が(これに関して詳しい話やスペックは後述)。

そんな、後続モデル発売まであと一月ちょっとという時期ではあるが、今回は美しい緑の腕時計、アルピニストSARB017をレビューする。





開封



化粧箱カバーも社名入り。コレクターとしてはこう言うのも取っておかないと気が済まなくて内心困る。


カバーを取ると化粧箱。


開けると出てきたAlpinist。


ケース



ケースのほとんどの要素は鏡面仕上げ。


異なる部分はラグ上部と裏蓋の内周部で、この二カ所はヘアライン仕上げ。


横から見ると、フラットなサファイアクリスタル風防が突出しているのがわかる。そこからベゼル部へと傾斜、そしてわずかに内向きに下方に下がる。「S」が見えるのはねじ込み式竜頭。


その側面は各辺がなめらかに面取りされた歯車状。奥まった部分には竜頭軸方向に細かい筋が入れられている。ぱっと見目立たない細かな装飾に感動。

この写真は時計部裏側から撮影したものだが、竜頭ガードの竜頭の下左右あたりに、横方向に線が入っているのがおわかり戴けるだろうか。これは実は僅かな傾斜となっており、リューズガードの竜頭下部より時計中心方向が低くなっている。この凹む部分は竜頭を回転させるときに丁度爪が当たる位置になっており、これがあるお陰で竜頭が回しやすい。竜頭ガードがもっと先に行くほど薄くなっていればこのような部分が無くても良いはずだが、側面から見たときのカーブを崩さずに竜頭を引き出しやすいための細やかな工夫と見ることもできるだろう。


歯車状の部分から少し突き出した頭頂部にはSeikoの「S」マークが彫られている。ここのマークの彫りは面取りされていないので、指でこの部分を触ると指紋がわずかに引っかかりを感じるが、そうでもしない限りは気になるものでもないだろう。ねじ込んだ時にきちんとマークが風防を上とする方向に合致するのも良い。


竜頭両脇にはリューズガード。リューズガードはラグの端へと向かいなめらかなカーブを描く。そしてリューズガードのカーブをへこませるかのように四時に位置するのはインナーベゼル回転用の竜頭。


こちらもぱっと見は三時の竜頭と似たシルエットで、同じく歯車状の側部ではあるが、筋は入っていないし、頭頂部は少し窪んでいる。


これを回せば後述の文字盤内部の方位を記したベゼルが回転し、現在時刻と太陽の位置を参考に方位を知ることができる、と言うのがポイント。簡易方位計としてはこんなファンシーなベゼルなど無くとも、一度使い方を覚えてしまえばどのアナログ腕時計でも方位計として使えるのでそこまで意味のある機能にはなっていない(逆に言えば使い方を忘れればベゼルの方位表記は全くの無意味だ)。


ダイビングウォッチなどのベゼルは時間をカウントダウンしたり、経過時間を測定するのに使うこともできる。このインナーベゼルでは「N」の位置のみ赤い逆三角形になっており、それを指標とすることで同様の使い方ができなくもない。だが残念なことに、Alpinistのこの竜頭はふとした拍子に触れてしまうと、インナーベゼルは簡単に動いてしまうし、クリック式でもないので竜頭に触れた感覚から動いたことを察知することも難しい。そうはいってもよっぽど竜頭周辺をいじろうとでもしない限りは極端に回るわけではなく、12時位置に合わせていたのが一日たって気づいてみれば目盛り2分ぶん動いている程度のもの。なので精度を要する時間測定には向かないものの「大雑把な回転式インナーベゼル」として使うことはできなくはない。


ケースリング部はカーブが目立ち、特にラグのあたりはセクシー。


ねじ込み式の裏蓋にはアルピニストのロゴ。「6R15-00E1」、「A6」、「MADE IN JAPAN」、「SEIKO」、「WATER RESISTANT 20BAR」、「ST.STEEL」の刻印。


文字盤



サンレイ仕上げの緑色の文字盤に、金色のアプライドインデックス、そして黒地の回転式インナーベゼル。


時分秒針どれもインデックスと同様の金色で、それぞれに蓄光部分がついている。時針はカセドラル針。


分針もカセドラル状に中抜き部分に橋渡しがあるシリンジ先端のもの。秒針は矢尻にも似た先端と、後ろに突き出たカウンターバランスが特徴的。


このようなカセドラル時分針の組み合わせ、もしくは時針と分針の太さが異なる組み合わせが効果的なのは、蓄光時に時分針が重なり合う位置にあっても一目で両針を見分けれることにあるだろう。


アプライドインデックスは菱形のものとアラビア数字のものが交互に配されている。どれも艶のある金色で、角は柔らかみを帯びており、なんというか、艶めかしく光を反射する。


十二時インデックスの下には、「SEIKO」のロゴが。こちらもやはり金色のアプライド仕様なのだが、各時インデックスとは異なり表面と側面が接する部分の角は取られていないため、キリッとした印象。


三時位置には日付窓。角に丸みのある切り抜きと、その一回り外側を囲む光沢のない金色のプリントがあり、その内部に黒背景、白フォントでカレンダーディスクが存在する。


6時インデックスの下左右には「JAPAN 6R15-」、「OOH1 R2」の表記がとても小さく記してある。

アプライドインデックスの外周には白線の円で囲まれ、文字盤最外周から細かな目盛りが内向きに伸びる。目盛りは各時毎のものが太くなって、円に接する。各時インデックスの上には丸く蓄光材が。各分の目盛りは円に近いところまで伸びているが接しない。その目盛りの間は五分割され、文字盤最外周から円の中程まで目盛りが伸びる。

写真で見ると文字盤面の緑が目立つため、その外周に位置するインナーベゼルの色がわかりづらいが、インナーベゼルは黒地(私は最初アルピニストを知った当初この部分も緑かと思っていた)に、白と赤。度数目盛りは主に白で記されており、北を示すための「N」逆三角形と、「NE」、「NW」のN部分が赤。


ムーブメント 6R15



使用ムーブメントは6R15。マジックレバーにより左右どちらの回転でもゼンマイを巻き上げる。2万1600bphで、耐震機構としてダイヤショックを備える。パワーリザーブは長く、なんと50時間。長いパワーリザーブも特筆すべき点だが、何よりもすごいのは報告される精度だろう。

このムーブメントはCaliberCornerによれば公式日差が-25/+25秒だが、実際に所有する人の間からは、日差+6/-4というクロノメター/COSC認定レベルの日差であるという報告が多く見られる(希に公式日差より悪いというケースも出はするが)。この高い精度と、アルピニストをはじめとする採用モデルの価格帯が比較的手頃なことから、海外時計ファンの間でも評価が高い。

メインスプリングにはセイコー独自の合金であるSpron510(スプロン)が用いられている。これは高弾性でありながら、耐久性、耐食性、耐熱性にも優れているもので、Strapcodeの記事ではこのスプロンのお陰でハイビートムーブメントよりも長いパワーリザーブと素晴らしい精度が達成されているたとしている(その特性などはSIIことセイコーインスツルのウェブサイトが詳しい)。パワーリザーブが長いため、ゼンマイが緩まって力が弱くなるまでに掛かる時間が長いため、それだけ精度も長い、というのが理由のようだ。

これ以外の6R15採用人気モデルとしては、セイコー・メカニカルのSARB035や、プロスペックス・ダイバー・トランス・オーシャンSBDC039、一つ前のモデルのカクテルタイムSARB065がある。



こちらがSARB035。「着用していたらグランドセイコーと間違われた」なんて話も聞く。海外では「Baby Grand Seiko」(ベイビー・グランド・セイコー)とか「poor man's Grand Seiko」(貧乏人のグランドセイコー)とも呼ばれる。確かに遠目に見ればSBGW231など40万円クラスのグランドセイコーに見えなくも無い。こちらもアルピニストと同じく製造終了しているので欲しい方は4万円程度で購入できる今がチャンスかもしれない。個人的に次にセイコー買うとしたらこれを買おうと思っている。



SBDC039、プロスペックス ダイバーズ トランスオーシャン。200mの防水性能を備えて6R15搭載、竜頭位置は4時で10万円程度。



欲しかった&買っときゃ良かった旧カクテルタイム、SARB065。今では7~10万円程か。

話はアルピニストどんどんずれて言っているが、現行のプレサージュ・カクテルタイムが元の6R15から4R35という格下なムーブメント(よく新興マイクロブランドが使用するNH35はこれの社外向け版)に変更した理由、そしてアルピニストをディスコンとし、後述の後続モデルをより値上げした理由として海外腕時計ファンから聞く噂としては「セイコーが6Rムーブメントの真価に気づいたから」というものがある。あながちそれも間違ってはいなかったりして。

一日中ほぼつけっぱなし、初日竜頭を巻かずに時刻合わせをした状態から精度をスマホに最初から入っていた時計アプリと目視比較した結果(本来精度はフルに巻いてから行うべきだし、大分適当な比較だから参考程度に考えてほしいが):
1日後:-1秒
2日後:-1.5秒(日差-0.5秒)
3日後:-1.5秒(日差0秒)
4日後:-4秒(日差-2.5秒)
5日後:-5秒(日差-1秒)
6日後:-7.5秒(日差-2.5秒)
7日後:-14秒(日差-6.5秒)
8日後:-14.5秒(日差-0.5秒)
9日後:-17秒(日差-2.5秒)
10日後:-28秒(日差-8秒)*この日は右手につけていた
11日後:-31秒(日差-3秒)*この日は主に鞄に入れたままだった
12日後:-35秒(日差-4秒)


と言った具合。一度(夏時間の終わりと共に)時刻合わせをし直してからは:
1日後:+3秒
2日後:+3秒(日差0秒)
3日後:+3.5秒(日差+0.5秒)
4日後:+2秒(日差-1.5秒)
5日後:-6秒(日差-8秒)
6日後:-10秒(日差-3秒)


といった感じで、公式日差よりはだいぶいいように感じられる。


ストラップ



どのレビューを見ても付属する型押しカーフレザー・ストラップは不評だが、色味的には時計部にマッチする。


堅いというのが悪評の一つの理由である。


悪評の(堅いという)原因の一つは時計部に近い位置にかなりの厚みを持たせるような作りになっているためだろう。


裏には「SEIKO -B 20」の刻印。


実際そこまで質が高いものではないだろうし、ここでクオリティーの手を抜くことで手頃な価格を実現できていたのだろう。しかし私の知る限り多くのレビューワーが購入直後にストラップを取り替えているため、付属ストラップが腕に馴染んだらどれだけ良いものなのか(もしくは馴染んでも悪印象のままなのか)、正当な評価はなされないままだ。

かくいう私もほぼ未着用の状態でストラップを取り替えたのだが。ストラップを取り替える話は別記事で今度記そう。


まとめ



セイコー・アルピニストについて語られるときに時折耳にすることとして、「それぞれの要素を取り出して、それだけ見るとたいしたものに思えないが、それらすべてが組み合わさった姿がなぜか魅力的」というものがある。

例えば「ゴールドのインデックスとシルバーのケースは組み合わせが悪い。だけどアルピニストでは総合的に見て美しいものになっている」というものである。私自身も実はカセドラル針はダサいと感じるのだが、なぜかセイコー・アルピニストでは時計全体の中で、魅力を生み出す要素の一つとしてうまく溶け出しているように思える。


腕時計に限らず、デザインは細部や個々の要素も大切だが、一つ一つの部品が形作る総和としての姿を描くことで初めて本当に魅力的なデザインとなると感じさせられる一本だ。なおこの腕時計のデザインに関しては、セイコーによる同社の腕時計デザインについて詳しくデザイナー達が語るウェブサイトby Seiko watch design「セイコー史上、最も謎めく緑の時計。」として取り上げられており、1995年に発売された4S15ムーブメント搭載のSCVF009とSARB017とがデザイナーらにより比較されている。


Image courtesy of SeiyaJapan Blog

SeiyaJapan Blogではすでに2020年1月に新たなアルピニストSBDC091が発売されるとの話も。これによればSBDC091はムーブメントが6R15から、パワーリザーブ20時間増しの6R35に変更されるほか、ケース裏は内部ムーブメントが見えるエキシビジョンバックに。そして以前のSCVF009モデルに付いていたサイクロップスこと日付拡大レンズがカムバック。プロスペックスラインから出るようで、文字盤には個人的にはアルピニストには似合わない「X」ロゴが追加されている。おなじみ緑文字盤+ブラウンレザー(改善されていると良いが)のほかにも、黒文字版+ステンレススティールブレスモデル(少し高い)と、白文字版+黒レザーストラップモデルも出るようだ。価格は7万5000円+税。


様々な違いこそあるが、新モデルの価格を考えれば、未だSARB017に在庫があるうちに購入するのも悪くはないだろう。私自身が購入したのは新モデルの話が出る前であったし、新モデルも気にはなるのだが、価格を考えると今SARB017を購入しておいて良かったと思う。



なおAmazonでお買い求めの際には、上のアフィリエイトリンクに表示されている価格と、実際の商品ページの価格が異なる場合があることにご注意いただきたい。Amazonウェブサイトのアルピニストの製品ページ以外のページからアルピニストを見ると(例えばAmazonサイト内で検索してアルピニストを探すなど)、上のリンクと同じ価格が表示されるはずだが、なぜか商品ページでは異なる価格が表示されることがあるのだ。私の場合は商品ページ価格が2万円硬貨に表示されたのでこれでかなり混乱したが、これはなぜかアルピニストのAmazon商品ページでは「Amazon以外の店舗が販売する分」が製品価格として真っ先に表示されるためだった。なので製品価格にはくれぐれもお気をつけを。もし商品ページの価格がそれ以外で見た価格よりも高価である場合は、「カートに入れる」を押すのでは無く、その下の方の「シェアする」とかよりも下にある「こちらからもご購入いただけます「新品の出品:XX(出品数)¥XX(金額)より」をクリックすればAmazon販売分を含め、別の価格の物が表示されるはずだ。


Source: CaliberCorner, Strapcodeセイコーインスツル, by Seiko watch design, SeiyaJapan Blog

(abcxyz)

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