eBayで買ってみた:ヴィンテージのセイコー・ファイブ、Seiko 5 SKXY09レビュー


今年になって日本でも展開を始めたセイコー・ファイブ。でも新しいのはなんだかつまらないな、やっぱり以前のセイコー・ファイブの方が魅力的なのがあったよな、なんて思いながらeBayをウロウロしていたら結構お手頃な価格のものが見つかったので落札してしまった。

今回はそんなセイコー・ファイブの歴史もちょっとかじりつつ、eBayでの購入経験、そして購入したSKXY09の詳しいご紹介までを行おう。



セイコー・ファイブとは



セイコーミュージアムによれば1963年に始まった元々のセイコー・ファイブは、東京オリンピックもあり1965年より輸出拡大、そして(Wikipediaによれば)1969年ごろからは日本国内で正規販売をしない海外限定展開モデルとなっている。少なくとも近年までの海外展開モデルは、価格帯は日本円にして1万円程度と安価さも魅力のひとつであった。

先にも述べたようにセイコー・ファイブは2019年より国内でも展開するものの、価格帯は3万円となり、カラバリは豊富ながらも面白みを欠いたシリーズとなっている。2019年のやつは値段が高いことと、ダイバーズウォッチっぽいけどセイコーのダイバーズウォッチ基準は満たしていないカラバリ違いしかないこと、元々「5」であったロゴが「S」にかわったことで見分けられる。参考までにこちらが新しいの。海外限定カラバリもある(右):



元々のセイコー・ファイブはシリーズ名にもある「5」がキーワードとなっており、先のセイコーミュージアムの記事を参考にすると、「1.自動巻機構」「2.防水機構」「3.三時位置一つ窓の曜日・日付表示」「4.四時位置に隠された竜頭」「5. (金属バンドを装着した)男性的なデザイン」とのこと。一応セイコーミュージアムがそう言うのだから当初はそうだったのだろうが、この五つの特徴は語るウェブサイトにより多少異なる。

特に「5.男性的なデザイン」というのはセイコーミュージアム以外で語っているところは私は少なくとも知らない。代わりに見るのはたとえばMonochrome Watchesの記事に見られる「1.一つの窓に日付・曜日の両方を表示」「2.全面防水耐衝撃ダイアショック機構付きインハウス自動巻きムーブメント」「3.防水性能」「4.四時位置に引っ込んだ竜頭」「5.ゼンマイにダイヤフレックスを採用した耐久性の高さ、同じく耐久性の高いケースとブレスレット」。他に「5.金属製で耐久性の高いブレスレット」というのも見た気がする。

今でこそ「何が凄いの?」と思えるかもしれないが、セイコー・ファイブの持つこの五つの特徴は当時画期的だったのは事実だ。防水機能を持つ腕時計は一般的では無かったし、曜日と日付は文字盤内に離れて別々の窓に表示されていた、更に竜頭が隠れているというのはわざわざ竜頭を巻かなくても良い=それほど効率よい自動巻き(左右どちらにローターが回転してもゼンマイが巻き上げられるマジックレバーが搭載されている)ということだった。


Image courtesy of WatchSleuth

2019年コレクション以前の近年のセイコー・ファイブは、自動巻き機械式ムーブメントで安価であること、信頼性の高さそのバリエーションの多さでも知られている(50年以上続くシリーズであるためでもあるが)。例えばケースは同一でも文字盤は全然雰囲気が違うモデルなんて言うのも多数あり、WatchSleuthというウェブサイトには2000以上のセイコー・ファイブモデルを検索可能な「Seiko 4 Finder」というページもあるほど。そんなこともあり海外ではコレクターも多いし、元値が安価なのでコレクションするのにも最適だ(少なくともコレクションし始めるのは容易だ、コンプリートするのは難度も必要予算も高いかもしれないが…)。

(当然ながら輸入品となるが)日本でも2019年よりも以前のモデルを新品で購入できる。例えばシンプルな文字盤が美しいSNK355K1(裏面から中のムーブメントが垣間見えるエキシビジョンバックも嬉しい)なら1万円程度(左)、格子状の文字盤装飾に黒い縁取りの時分針のSNXF05もやはり1万円程度(中央)、ミリタリーウォッチスタイル+エキシビジョンバックのSNZG13J1(右)も1万円台だ:



ダイバーズウォッチスタイルのものだってもちろんある。「セイコー・モンスター」はセイコー・プロスペック・スシリーズのゴツいベゼルにでかい蓄光インデックスを採用したダイバーズウォッチについている愛称だが(例えばSBDC067とか)、どことなくそれを彷彿とさせるモデルSRP601J1(左)もあれば、もちろんもっと当たり障りの無い見た目のダイバーズスタイルのSNZF17J2(右)だって1万円台から購入できる:



沢山アフィリエイトリンクを貼り付けてしまったが、サムネイルからもお判りの通り、一言で「セイコー・ファイブ」といってもバリエーションは豊富で、買うと決めてもどれにしようか選ぶのも大変なくらいだ。


ヴィンテージのセイコー・ファイブ


セイコーのしっかりした作りのオートマチック腕時計が1万円台。これだけでも十分お買い得だし選び甲斐があるが、これが中古であれば、今は新規購入できない魅惑のモデルが、もしかしたらより安く手に入るかもしれないのだ。特にヴィンテージのセイコー・ファイブはコンディションにもよるが、ebayで5000円でおつりが来るような値段のものも少なくない。


Image courtesy of eBay

そんなわけで「Seiko 5」をキーワードにeBayをウロウロする中で見つけたのがこいつ。商品写真ではシンプルなケースと、マッチするメタルブレスレット、そして深い青の文字盤に金の文字盤要素が印象的だった。10回の入札を勝ち抜き、落札価格は28ドル、送料無料(eBayではよく製品価格/落札価格は安く済んでも送料が高い場合があるので気をつけないといけない)。

9月28日落札で、10月末には届いた。発送元はインド。モデルの型番は記されていなかったが、ムーブメントは「7S26」で、製造年は1990-1999であるとの表記。また、「The watch has been recently serviced and keeping good time」(この時計は最近メンテナンスされており、きちんと作動する*)とのコメント付き。

*keeping perfect timeでなくkeeping good timeなので超正確ではなさそうだが、ある程度の正確性を持って作動すると読み取った。


ケース



ステンレススチール製ケースの状態は素晴らしいとはとても言えないが、悪くは無い。ケースの風防周辺は「使用感がある」を通り越して研磨したかのような跡が。個人的にはこの値段でこの状態は十分納得できる。が、一体前の持ち主はどんな戦をくぐり抜けてきたのだろうか…。


ケース表面は、フラットな印象を与えるが、ラグ部分は緩やかな傾斜を描く。このフラット感のあるシンプルな形状が入札するに至ったお気に入りポイント。


側面は僅かな膨らみが持たせてある。竜頭は3時と4時の間の4時よりに位置。セイコー・ファイブのポイントでもあるこの隠れた竜頭はほぼケースに入り込むような作りなので腕にぶつかることも、袖に引っかかることもない。


風防はフラットで、6時位置内側に「Seiko 5」のロゴが刻印されている。ぱっと見判らない細かい拘りはセイコーらしい。風防も端のところがほんのチョビッと欠けているが、使用に問題無い程度で、これにも納得。


ケース裏はねじ込み式。裏の方は「使用感がある」程度の傷つき具合。


ムーブメントは7S26。手巻き機能の無い自動巻き機械式ムーブメントで、CaliberCornerによれば2万1600bph、ダイヤショック耐震機構採用、パワーリザーブは41時間。精度は-20/+40程度とされる。現在では4R36に取って代わられて「DISCONTINUED」(ディスコン)との見出しも見られるが、1996年の製造開始から少なくとも2010年代まではセイコー・ファイブをはじめとする安価なモデルによく使用されていたようだ。


このムーブメントの製造は日本の他にもシンガポールとマレーシアがあるとのことだが、この落札したものに関しては裏蓋を開けるとローターには「JAPAN」の刻印があることからも日本製のよう。


マジックレバーと触れあう伝え車の歯車は欠けている部分もいくらか見られる。巻き上げ効率に関わる重要な部位ではあるが、このくらいの欠けようならまだまだ使える。実際腕につけて数日過ごしていたが特に巻き上げ面で目だった問題も無いし、精度も申し分ない。

マジックレバーは元々自動巻き上げの効率化を図るための部分な為、特にマジックレバー採用かつ手巻き機能付きのムーブメントでは伝え車の歯車が欠けやすいと聞いたことがある(自動巻き上げ用に作られた機構を無理に手で巻き上げるとこの部分の歯車が欠けやすいとか)が、この7S26には手巻き機能は無い。よっぽど使い込まれたのか、巻き上げ時に乱暴に叩いたり振ったりしたからなのだろうか、それとも想定された使用の範囲内でのことなのだろうか。まあムーブメント製造開始の96年に作られたとしても23年前のものなのだからこんなものなのかもしれない。


裏蓋の内側には「A I 9.12.04」と刻まれていた。これが「最近」のメンテナンスに関する刻印なのか、それ以前になされたメンテナンスの際につけられたものなのかは不明。

なお先に挙げたセイコー・ファイブのSNK355K1とSNXF05は同じくムーブメントに7S26を搭載する。また、セイコー・ファイブ以外のモデルにも、(少々値は張るが)ダイバーズウォッチのSKX007K1などにも7S26が使用されていた:




文字盤



文字盤は嬉しい驚き。eBayの商品写真ではただ単に深い青色の文字盤だと思っていたのだが、実際には文字盤中央から丸い蓄光部分の外側までは艶消しの青。その外側も同じく青ながら、サンレイ加工がなされているのだ!


しかもそれだけでは無く、サンレイ加工がなされた部分の文字盤よりの位置には、時計中心に角を向けそろえてある正三角形の艶消し部分が並んでいる。

この細かな仕上げは文字盤に光が入り込んで初めて目に留まる。上品な仕上げだ。


時分秒針はどれも金色。時分針はダフネ針と呼ばれる形状のもので、長さ方向に山折れ加工がされており、中に蓄光部がある。

各時には金色のアプライドインデックス、12時は2本のバーが並んだもの、6時と9時はそれぞれにバー、3時位置に曜日と日付用の金縁取りの窓、それ以外は水滴のような丸みのあるインデックス。


なお日付ディスクは英語とアラビア語の二カ国語版。


丸いインデックスはどの方向からの光もよく反射し、バーインデックスよりも可視性が高い。


3時を除く各時インデックスの内側には、丸い蓄光部分がある。まだまだ現役で蓄光する。


12時下には「SEIKO」、そして5角形の中に「5」のセイコー・ファイブのロゴが、文字盤の他の要素と共通する金色の部品でアプライドされている。「5」の背景部分は水平方向に細かな線が入っている。

インデックス部と窓枠、針と文字盤中心の針軸周辺に少し跡があったりはするが、文字盤は全体的に綺麗な印象で大満足。


ストラップ



ステンレススチール製の3連ブレスレットは、全体的に見れば可も無く不可も無く。


でも時計部のラグのカーブからの統一感を保ちながらブレスへと繋げるエンドリンクが大好き。この統一感!


でもエンドリンクは曲げて作ってあるものだし(写真はエンドリンク下面の刻印)…


それぞれのコマも金属部品の周囲に金属板を巻き付けて曲げて成形したもので、切り出したものと比べると見栄えは劣る。その一方でだからこそ軽量感はあると言えるだろう。


コマは手首に面する側にポッチが付いていて、それを外側に押して抜き出す仕組み。流石に中は錆び付いていた。


バックル部は「SEIKO」の刻印がある方開き式。5段階の微調整が可能となっている。


eBayでの購入について


今回は希望の商品を手頃な価格で購入でき、なおかつ実際に製品を手にしてからも満足できた。

だが海外から中古の時計を買うというのは怖いものだ。どんな人たちがお店を出していて、どんな保障がついているのかちゃんと判るような(そして保障が実行されるか信頼できる)、例えば当ブログでご紹介したKultaViljasetのオンラインヴィンテージショップのようなところから購入するならまだしも、ebayとなるとどんな売り手なのかサッパリ判らず少し怖いという方もおられるだろう。

その恐怖は常に忘れずに、「果たしてこの製品ちゃんと動くだろうか?自分はこの価格を払って満足できるだろうか?」色々考えながら、製品写真や詳細を確認して購入/入札の決断をすべきだろう。特に価格が高いものであれば、判らないことや不安な点があれば売り手に確認するくらいの手間を惜しむべきでは無いだろう。

例えば、私がeBayで見かけたセイコー・ファイブの中には、文字盤内の表記が一部消された(ように見える)写真や、メンテの際に付け替えたのか明らかに秒針の質だけ異なるものなどもあった。また、セイコー・ファイブに限らず腕時計の世界では、既存の(壊れた)腕時計のまだ使えそうなパーツから組み上げた稼働する腕時計、その名も「フランケン・ウォッチ」なるものの存在も伝え聞く。もちろん本物と見分けのつかないスーパー模造品なども存在するだろう。本来もっと価値があるはずなのに誰にも購入されていない/入札されていないものであれば怪しむべきだし、よりよく調べてみるべきだろう。

もちろんeBayにも購入者を守るための制度は存在するが(サッツ・メディアの「eBayバイヤープロテクション(買い手保護保証制度)とは?」などを参考にすると良いかもしれない)、それでも商品詳細や商品写真の確認不足の場合は買い手の落ち度となるだろう。

そのようなリスクがあると知った上で買うには良いんじゃ無いかと思うが、自己責任でお願いします!


Image courtesy of eBay

一応私がこのヴィンテージのセイコー・ファイブを購入したセラーはwatchkraftというところで、少なくとも2016年から販売しており1299のフィードバックスコア。eBayからも信頼された販売者「Top Rated Plus」という販売者レベルを獲得している。



また、中にはこの動画のようにeBayでロレックスを購入する人も。このYouTuber、
Bark and Jackも特に高価な買い物は詐欺も多いので注意するようにと語っているし、箱や証明書があるからといって本物とは限らない*が、セラーを調べたり、「サービスされてない、研磨されていない」という記述など、様々な細かい点から本物であるだろうと判断、6000ポンド(約80万円)の大枚をはたいて購入している。

*「が偽物である確率が下がる」、とも。箱・証明書の類いは別途購入できるから偽物に正規の箱・証明書をつけて売る詐欺もあるだろう。


まとめ



今回セイコー・アルピニストに次いで(ヴィンテージ)セイコー・ファイブSKXY09の魅力に触れたことで、これまでにも増してセイコーの腕時計への関心が湧いた。

初めてのeBayでの腕時計購入ということで心配したが、セラーの記述通り動く品であり、ヴィンテージの使用感はあるものの納得できる美品だった。支払った価格よりも価値があると感じられたのも嬉しい。完璧なコンディションではないものの、美しいビンテージのセイコー・ファイブが安価に買えたので大満足だ。

eBayでの購入は難しく感じられる方もおられるだろうが、身近に中古の腕時計を購入する環境が無い方や、国内のヴィンテージサイトで扱っていないレアなものが欲しいと言う方にとっては考慮しても悪くは無い選択肢だろう。個人的にも今後も面白いヴィンテージ腕時計をeBayで見かけたら買ってみようという自信がついたし(無論それぞれの出品・出品者毎に気をつけなければいけないのは言うまでも無いが!)、いい経験だった。


Source: セイコーミュージアム, Wikipedia, Monochrome Watches, WatchSleuth, サッツ・メディア

(abcxyz)

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