視覚の有無に関わらず美しさを感じ、誰もが時間を知ることのできる時計Eone「Bradley Timepiece」提供レビュー


2013年にクラウドファンディングサイトKickstarterで資金調達を成功させ、以降日本でも注目されている腕時計ブランドEONEから同社の「Bradley Timepiece」をレビュー用に提供して戴いた。

点字スマートウォッチDot Watchの記事中でも述べたように、私は現代技術の多くが視覚に依存するものであり、近い将来より注目を浴びるのは視覚以外の感覚を用いるデバイスであると考える。私はこのBradley TimepieceはDot Watchと比較するとより視覚障害者にも晴眼者にとっても使いやすい時を記す装置として以前より注目していた。


Eone


スタイルを犠牲にすることなく、誰にとってもよりアクセシブルで、より機能的な時計を提供することを目指したEone。同社の名前も実は「Everyone」(全ての人)という意味合いを込めて短くしたもので、その読みは「イー・ワン」となっている。

Eone社の創業者でCEOのキム・ヒョンスはMITでMBAを学んでいたときに盲目の友達がいた。彼は音声で時を告げる時計をつけていたが、時間を知ろうとすれば授業中に音が出てしまうので彼は授業中、ヒョンスにこっそり時間を耳打ちしてもらう以外に時を知る手段がなかった。その当時、周りの人に自分が時刻を知ろうとしていることが丸わかりな音声で時を告げる時計の他には、視覚障害者向けの腕時計は壊れやすく使いづらく、スタイリッシュさも正確さも欠けた指で触れるタイプの時計しかなかった。このことからヒョンスは視覚障害の有無にかかわらず誰もが時を知り、誰もが楽しめる時計を作る決意をしたのだ。


Bradley Timepiece




この時計「Bradley Timepiece」の名はアメリカ人のブラッドリー・スナイダーから名付けられている。スナイダーは2011年にアフガニスタンで米海軍として軍務に付き爆弾除去していたところ、それが爆発して視覚を失った。だがその後彼は競泳選手として2012年ロンドンパラリンピックで2つの金メダルを、2016年リオオリンピックで3つの金メダルを獲得した。

私は自分の盲目性が自分の周りに壁を作ることを許さない。私はこれまで成し遂げてきたこと、そしてこれから私ができることをもう一度する機会があったら、何百回でも自分の目を差し出すだろう。
-ブラッドリー・スナイダー

彼はそれまで持っていた視覚を失っても、それを障壁とせず、ステレオタイプを打ち壊し「障害と共に生きることで障壁となるのは障害そのものではなく、社会的不平等である」と公言する彼をEoneはスポークスパーソンとして起用している。また彼はこの時計の制作過程にも関わっている。


開封の儀



Bradley Timepieceの開封の過程もまた、時計そのものと同じく思いもよらぬ素晴らしい経験であった。


茶色の外箱を開けると中には黒い箱。


それをスライドさせると出てきたのは印刷と点字が記された斜めに切り取られた内箱。


その中に収まっているのは、説明書や手入れ用クロス、そしてその下に位置するのは…


美しいBradley Timepieceだ。こちらは「Mesh Silver」(メッシュシルバー)モデルとなっている。特に日本ではこのモデルが人気のようでレビュー執筆現在も日本のEoneショップでは売り切れとなっている。


ケース



メッシュシルバーはチタニウム製のモデルだが、このほかにもステンレススチールやセラミックが用いられたモデルも存在する。


左右対称の要素で構成されたシンプルで混じりっけのない形だ。


ケース径は40mm、厚さは11.5mm。


ムーブメントはスイス製の部品を用いたRonda製のクオーツ。バッテリーはRenata 371ボタン電池。

日本公式ストアでは「50m防水」の表記があるが、英語版にはそれは記されていない。どちらの言語でも記載されているのは、手洗いや雨に打たれる時に濡れる程度の水は大丈夫であるが、水中に浸すようには作られていないということ。また耐衝撃性の面では激しい運動には適さないとのことだ。


盤面


この腕時計で最も特徴的なのはこの「裸の盤面」だろう。つまりそこには時を示す構造を風防はなく、指で触れることで時間を知ることができる。

その盤面からは手で触ることで確認しやすいようにデザインされたインデックスが突き出しており、その中心に円を描くようにして溝が掘られ、そこに「分針」の機能を持つボールが入れ込んである。


「時針」は時計の側面にある溝に入れ込まれている玉だ。これらの玉が磁石により動いていくことで時を刻む。

盤面のインデックスは触覚で時を知るための基準となる重要な要素だ。12時の位置には下向きに頂点のある三角形が、3,6,9時の位置には長めのバー状の部品が、そしてそれ以外の位置には5分間隔で短いバー状の部品が配されている。


バンド



今回のモデルはステンレススチール製のメッシュバンドだが、このほかにもレザー製のものとキャンバス地のモデルが存在する。


バンド幅は20mm。バックル部には簡略化されたブランド名の刻印。


バンドの長さはこの部品を跳ね上げて調整する(写真は跳ね上げた状態)。


ケースからはスイベル構造のバンド受けが伸びており、時計の全体的な形状を崩すことなくどんな腕の大きさにもフィットしやすいような工夫がなされている。


メッシュのバンド部はバネ棒でバンド受けに取り付けられている。なのでこれを外すことでバンドを取り替えることができるはずだ。


使い心地



軽量なチタニウム製であることもあり、つけ心地はよい。重さは74g。

手元に目をやることなく時間を確認できると同時に、手元に目をやり確認することもできるのがこの時計の特徴とも言える。通常腕時計ではより文字盤中央に近い位置に時針が、中心から遠い位置に分針がある。そのため、初めてBradley Timepieceを使う際には中央近くに「分球」が、より中心から遠い時計側面に「時球」があることで戸惑う方も居るだろう。

私は彫刻や縫い物などもするので指先で時間を知るのは難しいことではないだろうと考えていた。だが初めて触覚だけで時刻を知ろうとした際には自らの指先の感覚を、頭で3次元的な形状にすることにどれだけ慣れていないか思い知った。特に分球の位置はインデックスの出っ張りと比較的近い位置にあるため、最初は「玉が入っていない溝部分」と「インデックス」は区別できるのに玉とインデックスが近くにあるときに少し玉の識別を難しく感じた。


だがこれは晴眼者によるBradley Timepieceの使用をとどまらせるものではない。1日もしないうちにそれぞれのインデックスの形の感覚が掴めてきたし、これを上手く識別するためのさわり方もわかってきた。まさにこれは我々が(私だけかも知れないが)どれだけ視覚にばかり頼り、指先の触覚を意識してこなかったかということを表しているだろう。

慣れれば手元に目をやることなく時間の確認となる。暗闇の中で時刻を知るために多くの時計が何らかの夜光塗料を用いているが、Bradley Timepieceであれば暗闇の中でも触れるだけで時間を確認することができる。

玉は指で触れ動かそうとすればレールの中で簡単に移動するが、本来あるべき位置から動いてしまった場合は時計をはめた腕をくるりと回しボールを動かせば現在時間を示す位置に戻る。手を素早く動かすと多少玉がぶれ動く音はするものの、現在時刻の位置から動くことはない。




指で触れて玉を動かせるというのも面白い特徴だ。暫く前にはフィジェットスピナーやフィジェットキューブなどが流行ったが、レール上で玉を動かしたり、玉が磁石に引っ付く様子を感じるのは楽しいものだ。

正確な分を知る必要がない場合は分球を触ることなく時計の側面の時球を探し、インデックスの位置と照らし合わせて「9時台で、もうじき10時になるところだな」などと認識することもできる。また分だけ知りたいときも同様に分球だけ触ればよい。

目視で時刻を確認するには盤面を見れば分球の位置はすぐに確認可能だが、時球は時計側面外周にあることから、一瞥して時球が確認できないときもある。そんな、時計の向こう側に時球が位置する場合は腕を傾むかせて確認せねばならない。


まとめ



針を用いることなく時を伝える時計は他にも存在するが、針を用いず視覚も必要ない時計、そしてその中でも触覚を用いて時を伝えるという非常に珍しい時計、それがBradley Timepieceだ。これを触覚的な時間認知をクオーツと磁石ボールベアリングという既存の技術を用いて可能にしたことは素晴らしい。

それと同時に、触覚による使用法を念頭にした不要な形や要素が自然とそぎ落とされた形状はBradley Timepieceに研ぎ澄まされた実用美を与えている。この製品の形状の生み出す美しさは視覚の有無を問わず楽しめるはずだ。視覚の程度にかかわらず時を知ることができると共に、美しく機能的。また視覚情報に頼りきりの人にとっては触感という重要な感覚への再認識という意味合いも持つだろう。

当然のことながらそれらがこの時計の最も重要な要素であり、意図してデザインされた仕組みではないであろうが、指寂しいときに玉をいじって遊べるフィジェットガジェットとしての楽しい機能を併せ持つというのも個人的に嬉しいところである。

日本にお住まいの方であれば購入はEoneの日本公式ストアからも、アマゾンや楽天などからも可能だ。




それ以外の地域にお住まいの方であれば、Eoneの国際版サイトからの購入が可能だ。

また、Instagramという視覚情報がその中心的存在意義であるプラットフォームにおいて、写真に写されている内容も文字で説明しているのも特徴となっている。



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最後にこの場をお借りして、今回レビューする機会を与えてくれたEoneに感謝したい。

Source: EONE, EONE JAPAN

(abcxyz)

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